カテゴリー: 東日本

前川國男設計「神奈川県立図書館」を訪れて

神奈川県立音楽堂」に続いて隣に建つ「神奈川県立図書館」へ。こちらの建物も隣と同様、前川國男の設計になります。渡り廊下で繋がった2つの建物。デザイン的には同じトーンで仕上げられているものの、その建物に求められた性質からか、音楽堂は開放的、図書館は閉鎖的と、両者は対照的な表情をしています。

図書館の外壁は、穴あきテラコッタブロックを積んで仕上げられてます。この穴あきブロック、ただの表層的なデザイン要素ではなく、きちんとした機能を持っています。直接光が室内に入るのを遮断し、ブロックの穴に反射した柔らかい光だけを室内へ導いているのです。内部へ入ると、安定した量の光が閲覧室内を満たしています。中央の閲覧室には吹き抜けが設けられ、北側は全面ガラス張りとなっています。他の穴あきブロック壁と同様に、こちらも直接光が室内に差し込まないよう、縦格子状のコンクリート壁が並び、柔らかな光で空間が満たされています。縦格子の間からは庭の樹々が見えています。

建物の中を見て回るうちに、設計者は表層的なデザイン以上に、その空間に求められた環境(というか空間の質)を実現することを目指したのではないか、とふと思い至りました。読書をするのに最適な光量、最適な静寂さ、人間同士の最適な位置、そんな場を作り出すこと。至極当たり前ことかもしれませんが、そのような本質的視点がこの空間を作り出しているように感じました。前川國男という人間の美学が感じられる空間とでもいうか。そう考えれば隣に建つ音楽堂も、音楽を鑑賞するための最適な音響、最適な人間配置など、環境を最適化することにすべての重心が置かれていることが理解できます。

設計者の前川國男は、スタッフから「大将」と呼ばれるような愛すべきキャラクターを持つ人物だったそうです。この2つの建物からは設計者、前川國男のその人柄からにじみでる温かさを感じることができるはずです。

神奈川県立図書館 神奈川県立図書館 神奈川県立図書館 神奈川県立図書館

前川國男設計「神奈川県立音楽堂」を訪れて

横浜ランドマークのある京浜東北線桜木町駅を下り、人通りの多いランドマークを避け、反対方向の紅葉坂へ。坂を上りきる辺りまでさしかかると前川國男設計の「神奈川県立音楽堂」が右手に見えてきます。正面の水平に延びた深い軒が、まるで人を誘っているかのよう。これだけ大きな規模の建物であれば、人に威圧感を与えてしまうことが多いのですが、そんな威圧的な雰囲気はなく、人を迎え入れるような優しい佇まいをしています。前川國男氏は、戦後一面焼け野原となったこの土地に人に希望を与えるような建物を作りたいと語ったそうです。その思いがこのような佇まいの建物を作らせたのでしょう。

少し背の高い音楽ホールを低層のホワイエが取り囲むという構成になっています。低層部分はガラスに覆われた軽快な意匠、音楽ホールは赤や緑で着色された重厚なコンクリートボックスと構成毎に異なる表情を持ち、お互いがその存在感を強調し合っています。

太陽の光が差し込む開放的なホワイエ。とても気持ちのよい空間です。「おおらか」という表現がしっくりきます。公演の合間にくつろぐ人たちや待ち合わせをする人たちが、みんな思い思いに時間を過ごしていました。天井から吊り下げられた照明器具やくねっと流れるような形の階段手すりなど、様々な細部にまで前川のデザインが盛り込まれています。その中でも個人的に特に印象に残ったのは床仕上でした。セメントと石を打ち込んだ後、研磨を掛けるテラゾーを2色使いで仕上げてありました。(昔は学校の手洗い場などで見ることができました。)一つ一つが考え抜かれ、職人さん達の手間が惜しみなく盛り込んであります。

扉を開け、落ち着いた雰囲気の音楽ホールへ。ゆったりとした椅子に腰掛け、演奏を待ちます。演奏が始まると、何かが違うことに気づきます。通常であれば客席の前方、ステージ方向から演奏が聞こえてくるのですが、どうもそうではない。目を閉じると、前方というよりはホール自体が音を発しているような不思議な感じがします。まるで楽器の中に入ってしまったかのような。このホールは天井壁ともに木で仕上げられています。この音響効果が木という素材によるものなのかどうかは、専門家ではないので分かりませんが、素人である私にでも何か違うという気がしました。設計者の前川國男自身、音楽好きで知られています。やはり音響に関しては特別な思い入れがあったのでしょうか。

演奏が終わり、外に出て振り返るとホワイエには明かりが灯り、昼間とはまた異なる表情を見せていました。外観のボリュームが闇に消え、ガラスの繊細さだけが際立って、昼に見たときよりも更に温かさが増したような感じがしました。

神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂

磯崎新設計「ハラミュージアムアーク」を訪れて

前橋から1時間弱車を走らせ、伊香保グリーン牧場方面へ。今回の目的は磯崎新設計の「ハラミュージアムアーク」。こちらは牧場に隣接して建つ美術館です。緑の芝生が広がるのどかな風景の中に真っ黒な建物が見えてきます。緑の中にごろんと転がった黒い物体。その存在自体がアート作品のようにもみえます。

建物に近づくと黒い外壁は黒く着色した下見板で仕上げられていることが分かります。展示スペースはいくつかの棟に分かれており、棟の間の半屋外空間を通り、各展示棟へと移動していきます。真っ黒な建物の隙間からは、遠くの山並みが見えたり、緑の樹々が見えたり。周辺の風景を上手く切り取り、借景としてフレーミングしています。黒い建物が背景となり、いっそう風景が目に入ってきます。

展示棟の中でアートとじっくり対峙した後、移動空間がちょっと一息つく時間を与えてくれます。真っ黒な展示棟に入る=オンの時間、真っ黒な展示棟から出る=オフの時間、というように明確に空間(体験)が区分されています。窓のない壁に囲われた閉鎖的な展示空間と、黒い壁に囲われた開放的な移動空間。とても対照的な空間です。オンとオフ、メリハリある空間操作によって、より集中して作品鑑賞ができるように感じました。だらだらと抑揚なく作品展示が続いている展示空間は、見ていて疲れますから。

構成はとてもシンプルですが、敷地環境を良く活かした気持ちのよい美術館でした。肩の力を抜いて鑑賞できるというか。雪の真っ白な風景の中に経つ姿もまた美しいのでしょうね。

ハラミュージアムアークweb
住所:群馬県渋川市金井2855−1
開館時間:9時30分〜16時30分(入館は16時まで)
休館日:木曜(祝日・8月を除く)、展示替期間、冬期(詳細はwebで確認ください)
入館料:一般1,100円、大高生700円、小中生500円
電話:0279-24-6585

ハラミュージアムアーク ハラミュージアムアーク ハラミュージアムアーク

渡邊洋治設計「斜めの家」を訪れて(その2)

渡邊洋治設計「斜めの家」の内部を特別に見せてもらうことができました。外観だけみると地中から浮上した鉛の潜水艦のような重厚な建物に見えますが、果たして内部はどのようになっているのか。期待に胸が膨らみます。

玄関ドアを開け、内部へ。玄関ドアといえば通常、外に向かって開くのですが、こちらのドアは内開き。ここ上越は豪雪地帯。雪が積もった際にドアが開けられないことに配慮し内開きとしたのでしょうか。玄関には下駄箱やコート掛け、内部から取り出せるポスト口と荷物受けが造り付けられています。奇抜な外観の印象に反して、内部の作り込みはとても細かく、とても良く使い勝手が考えられています。

玄関からスロープ状になった廊下へ。床には真っ赤な絨毯が敷かれ、両側の壁には大きさの異なる小さな穴がいくつもランダムに並んでいます。スロープは奥に向かって上へと登っています。傾斜した床のせいなのか、不規則な小さな穴のせいなのか、スケール感が失われるような不思議な感覚。廊下右手には手前から納戸、客間、キッチン、畳部屋の入口が並んでいます。各部屋の南側には大きな開口部が設けられ、明るい日差しが射し込んでいます。室内に入り込んだ光は床の赤い絨毯に反射し、室内を真っ赤に染めています。光の変化によって赤さが変化し、まるで光のインスタレーションを見ているようです。

廊下のスロープは途中で折り返し、更に上へと上がっていきます。ランダムな小窓からは外が見えたり、他の部屋が見えたり、移動するに従い刻々と景色が変化していきます。雨戸の締まった真っ暗な2階の部屋の中へ。ガイドの方に障子の所、ちょっと覗いてみてくださいといわれ、そこを覗くと。。。なんと!驚くべき現象が。もしこの現象を意図して設計していたのだとすれば、その設計者の創造力たるや計りしれません。(これはここを訪れた方だけが体験できることなので、ここでは秘密にしておきます。)

外観からはおどろおどろしい威圧的な印象を受けたのですが、今回、内部に入ってみて感じたのは、ヒューマンスケールのかわいらしい建物だということでした。開口部には雨戸、ガラス戸、障子戸、簾戸が仕込まれ、家具の細部の作り込みや、光の入り方や風通し、小さな窓の納まりなど、さまざまな箇所で暮らしに合わせた細かな工夫がなされています。仲の良かった妹さんの家ということもあって、渡邊洋治は考えられる限りの工夫を盛り込んだのでしょう。頻繁にこの家に遊びに来ていたという話から、まるで自分の家のような思い入れがあったのかも知れません。ひとつひとつの作り込みから渡邊洋治の愛情がにじみ出ています。

また光と色の使い方がこれほど上手い建物を見たのは初めてでした。あのような光と色の使い方があるのかと、大変勉強になりました。今回伺ったのは晩夏の晴れた日でしたが、雪の積もった冬の日などに訪れればまた違った体験ができるのではないかと思います。ぜひまた機会があれば。

渡邊洋治設計「斜めの家」を訪れて(その1)

斜めの家
住所:新潟県上越市(非公開)
見学について:建物の一般公開はしていません。見学希望の方は下記HPへ問い合わせください。
参考HP:渡邊洋治設計『斜めの家』再生プロジェクト

斜めの家内部 斜めの家内部 斜めの家内部 斜めの家内部

白井晟一設計「善照寺本堂」を訪れて

人で賑わう合羽橋商店街のすぐ裏手。白井晟一設計による切妻屋根の本堂がひっそり静かに建っています。今まで合羽橋商店街はよく通っていましたが、まさかその通りの裏に建っていたとは思いもよりませんでした。表通りから細いアプローチを通り抜け、ちょっと奥まった境内へ。境内に近づくにつれ、空気の質が変わっていくよう。装飾を抑えた端正なプロポーションの本堂が正面で迎え入れてくれます。

訪れたのはしとしとと雨降る日。長く延ばした庇の先端から砂利の上に落ちた雨が、ぽつりぽりつと雨音を響かせています。本堂は地面から1m程浮き上がっており、本堂の廻りにはテラス床が跳ね出し、回廊状に建物を取り囲んでいます。この跳ね出した回廊の床の厚さはとても薄く、まるで建物が浮遊しているかのように見えます。

石階段を登り回廊へ上ると、地面から1m程しか上がっていないのに、街の喧噪が遠のき、世俗から切り離されたような気分になります。このレベル差が結界の役割しているのでしょう。ごろっとした存在感のある石の階段や浮遊する回廊床が結界を作り出す重要な装置として働いているのでしょう。

本堂内部を覗くと、障子を通した柔らかな明かりに包まれ、静謐な空間が広がっています。庇の延びた左右対称の切妻屋根という昔ながらのお堂の典型的なカタチが、私たちにお寺というイメージを呼び起こすのか、斬新な表現のわりに誰にでもすんなりと受け入れられる姿になっているように感じました。静かに雨が降っているそんな日に訪れるのが良いかもしれません。1958年竣工。

善照寺本堂
住所:東京都台東区西浅草1丁目4−15
拝観について:一般公開はしていません。拝観の際には隣接する社務所にお声かけください。
電話:03-3844-4006

白井晟一設計 善照寺本堂 白井晟一設計 善照寺本堂 白井晟一設計 善照寺本堂 白井晟一設計 善照寺本堂

アントニン・レーモンド設計「高崎哲学堂(旧井上房一郎邸)」を訪れて

高崎哲学堂(旧井上房一郎邸)を訪れる。タイトルにはアントニン・レーモンド設計と表記しましたが、正確には直接的にレーモンドが設計をした訳ではありません。当時、麻布に建っていたレーモンド自宅兼事務所(こちらはレーモンドの設計)に深く感銘を受けた井上氏がレーモンドの許可を得て、建物の実測を行い、その資料をもとに建てたのが、こちらの旧井上房一郎邸ということ。平面方位が反転していたり、事務所棟がなかったりと、もともと見本にした建物とは少し変えてあるそうです。現代風にいえば、レーモンドfeat.井上房一郎といったところでしょうか。

ごつごつとした表情の杉丸太や合板という重厚な素材を使いながら、出来上がっている空間の質は軽快。障子を通して外から射し込む陽の光が柔らかく室内を満たしています。昔ながらの民家の延長線上にあるような懐かしい雰囲気。細かな納まりに目をやれば、ひとつひとつ丁寧に考えられていることが分かりますが、全体としてみるとデザインデザインしていなくて、嫌みなく自然に納まっています。素直に気持ちのよい空間。椅子に座ってぼーーっとしていると、時間があっという間に過ぎていってしまいます。

高崎哲学堂(旧井上房一郎邸)web
住所:群馬県高崎市八島町110-27(高崎市美術館内)
開館時間:3月~11月は10時~18時、12月~2月は10時~17時
休館日:月曜日(祝日は開館し翌日休館)、祝日の翌日、展示替期間、年末年始
入館料:大人100円、大高生80円(企画展は別料金)
電話:027-324-6125(高崎市美術館)

旧井上房一郎邸 旧井上房一郎邸 旧井上房一郎邸 旧井上房一郎邸

青木淳設計「潟博物館(ビュー福島潟)」を訪れて

青木淳設計の「潟博物館」。初めてこの建物を雑誌で見にした際、その特異な立ち姿にかなりの衝撃を受けたのを覚えています。しかも建っているのは私の地元、新潟。水田の広がる平坦な風景の中にすくっと意思を持って建っている姿は、遠くからでもはっきりと目にとまります。

水田に突き刺さったような逆円錐形の外周にはガラスが貼られ、中の人が移動しているのを外から見ることができます。フューチャーデザイン。1階のエントランスから上階へは、螺旋状の階段とスロープをぐるぐると廻ることでアクセスします。少し上り坂のスロープを歩いていくと知らず知らずのうちに上階へ。螺旋の動線(移動経路)がそのまま建物空間になっています。設計者の青木氏も「動線体」とこの建物を説明している通り、建築である以前に移動空間そのもの。(青木氏は最初に道をつくり、事後的に場が現れるというような説明しています。)移動するに従い、地表からの高さが変化し、それにつれて外の風景と方位が変化し、次々に新たな景色が現れていきます。

以前見た「雪のまちみらい館」と同様、ここでも空間自体ではなく、空間体験を意識的にデザインしているよう。階が変わる毎に室内の仕上げが刻々と変化していくのも楽しい。おにぎり形の床タイルや紫や芥子色のチンチラ天井、ふわっとした手触りのビロード手すり。艶っぽい色気のある仕上げ材を、いやらしくならないよう、さらっと使いこなしている所が秀逸。この空間体験は言葉や写真では伝えきれません。機会があれば、ぜひみなさんも体験してもらえればと思います。

潟博物館(ビュー福島潟)web
住所:新潟県新潟市北区前新田乙493
開館時間:9時~17時
休館日:毎週月曜日(休日の場合は翌日)、 年末年始12月28日~1月4日
入館料:一般400円、小中高生200円
電話:025-387-1491

潟博物館 潟博物館 潟博物館 潟博物館

谷口吉郎設計「金沢市西町教育研修館(旧石川県繊維会館)」を訪れて

金沢駅から歩いて10分、旧石川県繊維会館を訪れる。意識していなければ、通り過ぎてしまうほど控えめな外観。(現に私は一度、通り過ぎてしまいました。)しかし、よくよく見れば規則的に並んだ水平窓やキャンティレバーで持ち出した2階から上の階など、随所にル・コルビジェからの影響を見ることができます。

エントランスを入ると、控えめな外観とは対照的に、上階へと吹き抜ける堂々としたエントランスホール。上部に設けられた高窓から落ちる柔らかな光。螺旋状に上へ上へと上がっていく白い階段。1階部分の重厚な石張り仕上げと対照的に、頭上には真っ白に仕上げられた浮遊するような螺旋階段。まるで暗い井戸の底から上を見上げているような気分。1階の壁をよく見ると、亀甲型の石張り仕上げとなっている。ああ、そうか。1階の空間は亀を表し、上階の階段は飛んでいる鶴を表しているのか。クライアントである繊維組合にとって「鶴亀」は繊維柄として縁起良いモチーフであった。その鶴亀を空間要素へと見立て、下手な表現にならず、スマートな空間へと纏め上げてしまう設計者の手腕に感動しました。1952年竣工、谷口吉郎設計。

金沢市西町教育研修館 web
住所:石川県金沢市西町3-16
開館時間:9時~19時
休館日:火曜日
見学について:受付にて見学許可を得てください
電話:076-220-2449(金沢市教育委員会学校指導課)

谷口吉郎設計石川県繊維会館 谷口吉郎設計石川県繊維会館 谷口吉郎設計石川県繊維会館 谷口吉郎設計石川県繊維会館

堀田英二設計「ビラ・ビアンカ」を訪れて

東京の明治通りを歩いていると、遠くからでも明らかに周囲の建物と異なる特徴的な外観が見えてきます。堀田英二設計の集合住宅ビラ・ビアンカ。建物の竣工はちょうど東京オリンピックの開催された1964年。まだ東京も都市化する前の懐かしい風景が残っていた頃。今であればデザイナーズ集合住宅といえば大半の人が分かると思いますが、集合住宅にデザインを持ち込むことがマイナーだった時代に、今見ても斬新に感じる集合住宅を考えついていた設計者の創造力には驚きです。

外観は積み木を互い違いに積んだような市松模様。へこんだ部分が各住戸のバルコニーとなっているようです。井桁状に組まれた梁が外部へ現れているからか、平面が雁行状にズレているからか、コンクリート造でありながら、なんとなく木で組みあげたような日本的雰囲気が感じられます。コンクリート井桁梁を見せた建物といえば、丹下健三設計の香川県庁舎が有名ですが、香川県庁舎の繊細な表情と比べ、こちらは即物的な力強さが感じられる建物となっています。

こちらの建物、竣工して50年経った今でもメンテナンスされながら大切に使われているようです。その効果あってか、いまだに全ての部屋が満室だと聞きます。スクラップ&ビルドの時代の中で、価値を失わず使われ続けているということは本当に素晴らしいことだと思います。時間とともに価値を失っていくのではなく、逆に価値を増していく建物。消費されるのではなく、時間経過とともに価値を増していく、そんな強度のある建物が増えていけば、街の魅力も増していくのでしょうね。

ビラ・ビアンカ
住所:東京都渋谷区神宮前2丁目33-12
見学について:内部の一般公開はしていません。
参考WEB:http://www.r-store.jp/room/3894

ビラ・ビアンカ ビラ・ビアンカ ビラ・ビアンカ

岡啓輔設計「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」を訪れて(その2)

続き
また手で扱える範囲という施工条件を最大限活かし、この造形は導き出されています。今そこにある道具と技術から導き出された形。一回の打設量が多ければ、こうはいきません。こつこつと作ることで可能となる形。部分部分で異なる造形が現れているのは、この工法と掛ける時間の成せる業です。

話は変わりますが、岡さんは舞踏家という顔も持っています。ほぼ日で岡さんはこのようにコメントしています。(引用→) 「それに対して踊りは、思ってから踊るのではなく、思う前に身体が動いていないといけません。思考を追い越すこと、そこが踊りの面白いところなんです。だから建築も、頭の中のイメージと出来上がるものの距離を縮めることができれば、もっとよくなるはず」この文章を読んで、なるほどと合点がいきました。そうか、岡さんにとって、踊ることと、建築することは同じことなんだ、と。言い換えてみると「思ってから作るのではなく、思う前に身体が動いて作り始める。建 築が思考を追い越すこと。」これが重要だと。この文の最初にも書きましたが、外から見た建物の姿がまるで踊っているように見えたのは、あながち間違いではなかったのでしょう。「踊るように、建築する。」

今まで色々な建築を見てきましたが、私個人的には、今回かなりの衝撃を受けました。蟻鱒鳶ルの毒にあたったというか。忙しい中、案内をしていただいた岡さんに感謝いたします。次はただ見学するのではなく、ぜひ参加したいと思います。作業着を着て伺いますので。

蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)
住所:
見学について:内部の一般公開はしていません。
参考WEB:蟻鱒鳶ル保存会

蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル

岡啓輔設計「蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)」を訪れて(その1)

東京、三田。閑静な住宅が建ち並ぶ駅からほど近い坂の途中に「ソレ」は現れた。ソレと表現したのは外観からソレが建築であると、頭で理解するまでに時間が掛かったから。言葉で表現するなら、バリケードで囲まれた城壁のよう。コンクリートの城壁は身体をくねらす様に踊りながら、上空へと手を伸ばしている。その身体には様々な形の無数の装飾品の数々。今まで色々な建築を見てきましたが、この建築は私の建築という理解の枠を遥かに越えていました。

通りから中を覗くと人の影。軽く挨拶する。「どうも」と現れたのは、この建築物の施主であり、設計者であり、施工者である、岡啓輔さん。岡さんは、この建築を自ら考え、資金と時間を使い、自分の手でこつこつと作り続けているのです。セルフビルドといえば木造ではたまに見ることはあるけれど、鉄筋コンクリート造を自らの手で作っている方には初めて会いました。

大きな重機を使わずに自力建設を行なうため、手で扱える範囲、巾数m程度、高さ70センチづつ、コンクリート打設しながら施工を進めているそうです。毎回コンクリートが打ち上がる度、少し離れて眺めてみては、次はこうしようかああしようかと悩みつつ、その先の形状を決めていくという。全体の出来上がりをイメージしてそこに建築をまとめていくのではなく、今そこにある形と対話しながら作っているそうです。岡さん自身、全体像がどこに向かっていくのかは、はっきりとはイメージしていないといます。つまり、施工と同時にライブで設計作業を進めているのです。

ここでは、作ることと、考えることが同時に起きています。「作ること=考えること」こんな至極当たり前のことなのに、普段の設計業務に追われていると、そんな当たり前のことさえ忘れてしまっている自分がいました。今の設計業界では、作ること(施工者)と考えること(設計者)は別の仕事であると捉えられている感があります。(つづく→)

蟻鱒鳶ル(アリマストンビル)
住所:
見学について:内部の一般公開はしていません。
参考WEB:蟻鱒鳶ル保存会

蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル 蟻鱒鳶ル

渡邊洋治設計「斜めの家」を訪れて(その1)

渡邊洋治の設計した建物を見るのはこれで2つ目。1つ目は「善導寺」だった。街の中に突如現れた艦船のような外観には驚かされた。斜めの家の竣工は1976年。善導寺が竣工して10年と少し後に経った後の建物である。こちらの建物も善導寺と同じように、住宅地の中に何の脈絡もなく、突然現れる。その特異な外観は明らかにその周囲の街並から浮き立ち、遠くからでもその存在感を感じることができる。

見た目は斜めにごろんと置かれた鉛色の箱。その箱の側面には小さな穴がいくつもランダムに穿たれている。どう贔屓目に見ても家には見ない。屋根が掛かっていることから、かろうじて建物であることだけは認識できる程度。家というよりも、どちらかといえば地中から浮上した潜水艦といった方がしっくりくる。鉛色の外壁がそのような印象を与えるのだろうか。こちらの壁、近くに寄ってみるとべこべこと皺が出来ている。とても薄い板を張り付けているようだ。調べてみると、銅箔仕上げをしているらしい。銅板ではなく、銅箔。それであの独特の表情が出ているのかと納得。

いくつも設けられた小さなポツ窓により、スケール感が掴みにくいが、とても小さな建物。タイトルにもあるようにこの家の内部は斜めのスロープでつながる部屋で出来ているらしい。今回は外からの見学だったので、内部を伺い知ることは出来なかった。ぜひ、機会があれば内部の空間も体験してみたい。一体、どのような空間が内部には広がっているのだろうか。やはり潜水艦の内部のような特異な空間が出来上がっているのだろうか。想像が膨らむ。

後日、内部を見学させていただきました。→ 渡邊洋治設計  斜めの家を訪れて(その2)

斜めの家
住所:新潟県上越市(非公開)
見学について:建物の一般公開はしていません。見学希望の方は下記HPへ問い合わせください。
参考HP:渡邊洋治設計『斜めの家』再生プロジェクト

斜めの家 斜めの家 斜めの家 斜めの家