カテゴリー: 建築を巡る

エーロ・サーリネン設計「MITチャペル」を訪れて

エーロ・サーリネン設計MITチャペルを訪れる。前回訪れた時は改修工事中で内部を見学する事が出来ませんでした。という訳で今回、初の空間体験をしてきました。

こちらの建物は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のキャンパス内に位置しています。キャンパスに入ると、鮮やかな緑色の芝生と緑の木々の先に赤茶色の円筒形の外観が見えてきます。赤茶色のレンガで覆われた素っ気ない外観は、キャンパスの風景に溶け込んでいて、目を凝らしていないと見過ごして通り過ぎてしまいそうです。

礼拝堂には直接入る事が出来ず、礼拝堂から飛び出したガラス張りのエントランススペースから礼拝堂へとアプローチすることになります。円筒形の礼拝堂の周りには池が配置されており、キャンパスと礼拝堂を隔てています。池の上に掛かったエントランススペースは橋のように、こちらの世界と礼拝堂内を繋ぐ役目を果たしています。重厚な木製扉を開け、エントランススペースに入ると通路の両側の透明ステンドガラスが目に入ってきます。それぞれのステンドガラスは、微妙にテクスチャと色調が変えてあり、霞がかかった様に外部の緑や風景を遮っています。ガラスを透過した色調の異なる多様な光は静かに室内を満たしています。

池の上に掛けられた橋状のエントランススペースを抜け、いよいよ礼拝堂内部へと入っていきます。真っ暗な礼拝堂の正面に、光の柱が見えてきます。祭壇の上部から落ちる静寂な光。天窓から落ちる光は、ハリー・ベルトイアがデザインしたワイヤーアートに当たり、まるで天使の羽が天から落ちてくるよう。その美しさに息をのみます。

次第に暗さに目が慣れ、周囲がぼんやりと見えてきます。建物内部の壁は、祭壇から後方へとひだ状に波打っている事がわかります。(後方へいくに従って湾曲する波長が大きく変化していきます。)また、波打つ壁の下部スリットからは、外部の池に反射した陽の光が揺らぐように入ってきます。

平面図を見る限り、何故内側の壁が波打っているのか、想像できなかったのですが、実際にこの場所に立ってみて設計者の意図が何と無く分かりました。ただの円筒形の壁では、天から落ちてくる弱い光を受け止めることができないと考えたのでしょう。壁が波打っていれば弱い光でも、出っ張った部分には光が当たり、凹んだ部分には影が出来る。そう考えてひだ状の内壁としたのではないでしょうか。

上部から落ちる光は、雲の流れや太陽の動きに応じて、刻々と変化していきます。様々な角度を向けて取り付けられたワイヤーアートの反射板は、外部の光の変化だけでなく、堂内の座る場所によって、光の強さを変え、時には赤く、時には青く色調を変えていきます。同じ堂内、同じ時間でありながら、それぞれの人が異なる体験ができるという、とても面白い趣向があります。

設計者エーロ・サーリネンは、この建築(壁や屋根)を作る事を目的としたのではなく、建築を手段と考え、静寂な光を感じさせることをただ一つの目的としたのではないか、と感じました。あくまで光が主役、建築は脇役と考えて。(主役を引き立てる名脇役ではありますが。)

この空間に佇んでいると、自分がキャンパス内の華やかな場所にいる事を忘れてしまいます。もし皆さんが見学に訪れるなら、出来るだけ朝の早い時間に見学する事をお勧めします。照明でなく、ぜひ自然光でこの空間を体験してもらえればと思います。

MIT Chapel
住所:48 Massachusetts Ave,Cambridge, MA 02139,アメリカ合衆国
開館時間:7:00-23:00
イベント等が行われていなければ自由に見学が可能です。

MIT chapel
MIT chapel
MIT chapel
MIT chapel
MIT chapel
MIT chapel

ルイス・I・カーン設計「フィリップ・エクセター・アカデミー図書館」を訪れて

ボストン市街から列車に乗って約1時間、エクセター(Exeter)駅近くの「フィリップ・エクセター・アカデミー図書館(phillips exeter academy library)」へ行って来ました。こちらの図書館はエクセター・アカデミー(高校)のキャンパスに建つ付属図書館です。青々とした芝生と緑の樹々が眩しい広々としたキャンパスの中、赤茶色のレンガに覆われた四角い建物が見えてきます。外観の特徴といえば、規則正しく連続する窓と煉瓦張りの柱梁。素っ気ないほど端正な表情をしています。モダンな建物というよりは、古典的な(古風な)雰囲気を漂わせています。

こちらの建物の一番の見所といえば、建物中央に配置された屋根まで繋がる大吹き抜け空間です。吹き抜け空間の4周の壁には正円の開口が設けられており、吹き抜けの上部には全ての階の書架を望むことができます。上部ハイサイド窓から差し込む光は、十字形の梁にぶつかり、拡散して吹き抜け下部へと落ちていきます。ぐるり一周、どこの方向を見ても本棚。この場所にいると、本に囲われていることを感じる事ができます。

カーンの建物を見て感じるのは、ストイックなまでに仕上げ材が制限されているということです。レンガ、コンクリート、木、トラバーチン(石)、ガラス、アルミ。外装も内装も、それだけで全て仕上げられています。また、閲覧テーブルやカウンターなどの人が留まる場所には、レンガ、木、トラバーチンなどの柔らかな素材を、吹き抜けやホールなどの象徴的な場所には、コンクリートやガラスなどの硬質な素材を意識的に使い分けているようです。素材の使い分けによって、ヒューマンスケールの居心地の良い場所と、ヒューマンスケールを越えた超越的な場所を作り出されています。

また建物の大きさの割に、とても細かな作り込みが配慮してある点がても好感が持てました。閲覧テーブル脇の窓には、外光を調整できるよう引き戸が設けてあったり、荷物を置く収納が設けてあったり、ゴミ箱収納がきちんと綺麗に納めてあったり。使う人にとって、とても親切な工夫がそこかしこに読み取れます。本を読んで理解していたルイス・カーンの空間は、論理的で硬いという印象を持っていたのですが、実際に作られた建物を見ると、決して論理的でお硬い訳ではなく、むしろ使う人に寄り添った人間的な建物であるという風に感じました。

phillips exeter academy library
住所:2-36 Abbot Hall, Exeter, NH 03833 アメリカ合衆国
開館時間:Monday – Friday 8:00 – 4:00(その他の休館日はwebで確認ください)
受付カウンターで芳名帳に記名すれば見学が可能です。

phillips exeter academy library
phillips exeter academy library
phillips exeter academy library
phillips exeter academy libraryphillips exeter academy library
phillips exeter academy library
phillips exeter academy library
phillips exeter academy library

大高正人設計「坂出人工土地」を訪れて

「坂出人工土地」と読んで、いったい何のことなんだ?と、お思いになったかもしれません。そう今回は、建物だけではなく、土地自体から設計したという例を紹介します。場所は、香川県坂出市。駅前商店街の一角に、この人工土地はあります。

そもそも人工土地というのは何かというと、50m×150mの1街区を丸ごと地面から持ち上げ、人工的に作り出した土地(地面)のことです。高さ6mほど持ち上げられた人工土地の下には、柱の区画に嵌るように商店街が入っています。電車の高架の下に入ったお店の並びをイメージすると分かりやすいかもしれません。持ち上げられた人工土地の上には、中層の市営団地がランダムに建っています。

表通りから見ている限りは、なんの変哲もない建物に見えます。しかし、階段を上り、人工土地の上に出ると、驚きの風景が現れます。階段を上ったのに、また地面がある。。。持ち上げられた人工土地の上では、自動車が走り、地面から樹々が生い茂り、自転車に乗る人が目に入ってきます。先ほどまで家々が立ち並ぶ駅前商店街にいたのに、階段を上った途端、ゆったりとした郊外団地の風景が目の前に広がります。近年であれば、人工的に持ち上げた地盤は多々見る事はあるのですが、それはあくまで地盤であって、土地ではありません。「坂出人工土地」は地盤ではなく、土地となっています。個々の玄関の前には、自転車や自動車が置かれ、緑の樹々が育ち、地面の舗装も程よく色褪せ、時を経てまさに人々の生活が根付いた土地となっていました。

人工土地のレベルは均一ではなく、場所ごとに高くなったり、低くなったり階段状になっています。さらに各住棟がランダムに配置されているため、住棟間にはとても複雑な空地が生まれています。人工土地の上を歩いていると、上がったり下がったり、ぐるっと回って元の場所に戻ったり、迷路状の回遊動線となっていて、ぐるぐると歩き回ると、とても面白い空間体験ができます。

坂出人工土地(市営京町団地)
住所:香川県坂出市京町
竣工:1968年
設計:大高正人
※住民の方がお住まいですので、見学の際にはプライバシー等に充分配慮ください。

坂出人工土地
坂出人工土地
坂出人工土地
坂出人工土地
坂出人工土地

重森三玲作庭「重森三玲庭園美術館」を訪れて

京都、重森三玲庭園美術館を訪れてきました。こちらは作庭家、重森三玲の自邸。そこは重森三玲が自ずからの世界感を表した庭がありました。

こちらの邸宅は、京都の昔ながらの町の中に位置しています。気をつけていなければ、庭園美術館とは気がつかず、通り過ぎてしまいそうなほど、素っ気ない外観。が、一歩その塀の中へ足を踏み込めば、驚くような庭が眼前に広がります。

ごつごつとした荒々しい石が、あちらこちら無数に配置されています。大胆かつ繊細。一見、ランダムに並べられたかのように見える石は、見れば見るほど周到に考えられ、そこに必然性を持って、据えられたことが次第に分かってきます。これをバランスの妙というのでしょう。じーっと見ていると、動かない石が意思を持って動きだすかのような不思議な感覚を覚えます。

庭の奥行きは3〜4間程度。塀の直ぐ向うには前面道路。数m先の隣地には境界に隣接して隣家が迫っています。決して広くはない敷地の中に、これでもかと思いを詰め込んだ重森三玲の想い。その想いゆえか、実際の広さ以上の奥行きを感じる空間となっています。この庭を見ていると、まさか塀の外に普通の町並みが広がっているなどとは、想像もつきません。

住宅街の中、塀の中に一歩入ると、そこに広がる小宇宙。小さな中に自ずからが考える世界観を表現する。これが作庭の真髄なんだと、私は理解しました。狭小空間の中に世界感(時間)を表現する茶室と同様に、庭も世界感(空間・時間)を作り出すという意識を持つことが大切なんですね。

重森三玲庭園美術館
住所:京都府京都市左京区吉田上大路町34
電話:
※見学には事前予約が必要です。

重森三玲庭園美術館 重森三玲庭園美術館
重森三玲庭園美術館 重森三玲庭園美術館
重森三玲庭園美術館

丹下健三設計「台北聖心女子大学」を訪れて

台北中心部より電車で北へ30分、更にバスに乗り換え、計1時間。ゆうゆうと流れる淡水河畔、牧歌的な町並みが広がります。台北市街地とは異なり、ここでは少し時間がゆっくり流れているようです。今回の旅の目的は1967年竣工、丹下健三設計による「台北聖心女子大学」です。

淡水河を見下ろす丘の上に建ち、丘の起伏を利用した空間構成が特徴的。平面は、一筆描きのように丘の上をクネクネと這うように折れ曲がりながら、奥へ奥へと続いています。円筒状の垂直コアとそれに架け渡した水平スラブ(床)によって構成されています。同時期に設計された「山梨文化会館」や「静岡新聞・静岡放送東京支社ビル」などの建物と同様の造り。が、他の建物と異なるのは、円筒状コアがランダムに配置されており、より動きのある平面空間が生まれていること。

雑誌で見ていたランダムな平面は、ちょっとデザインが過剰すぎるのではないか、と思ってましたが、実際にここを訪れて感じたのは、不条理さが一切ないということでした。丘のアップダウン、緑の樹々と相まって、このランダム平面がとても自然に感じられました。この環境で、真っすぐな平面を配置したのでは逆に、周囲から対立し、浮き立ってしまったでしょう。流石、丹下と脱帽しました。このような敷地の質の読み取りを丹下健三がしていたかどうかは、私の想像でしかありませんが。

建物内には、そこかしこにベンチや空間溜まりが用意されており、学生達は思い思いに腰をかけ、本を読んだり、話をしたりしています。建物のスケールが大きい割に、細部の作り込みはヒューマンスケールで、居心地の良さを感じます。各所の曲面ディテールや、外壁仕上げのざらっとした表情のテラゾー(人造研ぎ出し)が、一役買っているのかもしれません。

日本国内で見る丹下健三の建物とは少し異なる優しい空間が生まれているように感じました。それは、台北の気候や風土が作り出したのかもしれませんね。

台北聖心女中学校
住所:新北市八里區龍米路一段263號
電話:
※見学に関しては施設へ直接問い合わせください。
私が訪れた際は、警備員室から担当者に許可を得て特別に見学させてもらいました。

台北聖心丹下健三
台北聖心丹下健三 台北聖心丹下健三
台北聖心丹下健三
台北聖心丹下健三

片岡献設計「聖クララ教会(与那原カトリック教会)」を訪れて

打合せのため、夏真っ盛りの沖縄へ。打合せの合間を縫って、以前から訪れたいと思っていた与那原の「聖クララ教会」を訪れてきました。

与那原へは県庁前からバスで約30分。バス停を降り、ふと見上げると、丘の上に中央が低くなったバタフライ型の特徴的な外観が見えています。その外観に誘われるように、丘の上へ上へと階段を上っていきます。敷地内は、地元の方の通り抜けになっているのか、途中、さまざまな人とすれ違います。教会というと何となく近寄りがたいイメージがあるのですが、こちらの教会はとても親しみやすく、敷地内には沖縄らしい柔らかな空気が流れています。

エントランスを通り抜け、中へ入ると、目の前には沖縄らしい濃い緑の樹々と光の溢れる中庭が広がっています。その中庭を取り囲むように配置された回廊をぐるりと廻り、聖堂へ。

聖堂内に入ると、右手には色とりどりの色ガラスの嵌まったガラスサッシ、正面には祭壇が見えてきます。入口から祭壇に向けては、次第に高くなっていく天井。その視覚的効果なのか、(実際に距離の割に)祭壇が間近に迫っているように感じます。これは、神を遠い存在ではなく、より親密に(身近に)存在として感じるよう、設計者が意図してデザインしたのかもしれません。そうだとすれば、さりげなくありながら、とても秀逸な仕掛けです。

椅子に座り目を閉じていると、海風が聖堂内を涼やかに吹き抜けていきます。色とりどりのガラスが嵌め込まれたガラスサッシは、部分部分、開けることが出来、その部分には網戸も取付けてあります。左右の開口部からは、途切れること無く風が流れていきます。ただ美しいだけでなく、とても使い勝手よく、気候風土を考えた合理的な造り。

写真から勝手に考えていたイメージではもっと硬質な崇高な空間だと思っていたのですが、実際にこの場を訪れて感じたのは、とても親しみやすく、温かな空間だというということでした。沖縄の、あの温度、あの湿度、あの静けさ。言葉や写真では伝えきれない沖縄の濃密な時間が、そこには存在していました。

聖クララ教会(与那原カトリック教会)
住所:沖縄県島尻郡与那原町字与那原3090-4
電話:098-945-2355
見学に関する問い合わせは直接教会へ

聖クララ教会 聖クララ教会 聖クララ教会 聖クララ教会

前川國男設計「神奈川県立図書館」を訪れて

神奈川県立音楽堂」に続いて隣に建つ「神奈川県立図書館」へ。こちらの建物も隣と同様、前川國男の設計になります。渡り廊下で繋がった2つの建物。デザイン的には同じトーンで仕上げられているものの、その建物に求められた性質からか、音楽堂は開放的、図書館は閉鎖的と、両者は対照的な表情をしています。

図書館の外壁は、穴あきテラコッタブロックを積んで仕上げられてます。この穴あきブロック、ただの表層的なデザイン要素ではなく、きちんとした機能を持っています。直接光が室内に入るのを遮断し、ブロックの穴に反射した柔らかい光だけを室内へ導いているのです。内部へ入ると、安定した量の光が閲覧室内を満たしています。中央の閲覧室には吹き抜けが設けられ、北側は全面ガラス張りとなっています。他の穴あきブロック壁と同様に、こちらも直接光が室内に差し込まないよう、縦格子状のコンクリート壁が並び、柔らかな光で空間が満たされています。縦格子の間からは庭の樹々が見えています。

建物の中を見て回るうちに、設計者は表層的なデザイン以上に、その空間に求められた環境(というか空間の質)を実現することを目指したのではないか、とふと思い至りました。読書をするのに最適な光量、最適な静寂さ、人間同士の最適な位置、そんな場を作り出すこと。至極当たり前ことかもしれませんが、そのような本質的視点がこの空間を作り出しているように感じました。前川國男という人間の美学が感じられる空間とでもいうか。そう考えれば隣に建つ音楽堂も、音楽を鑑賞するための最適な音響、最適な人間配置など、環境を最適化することにすべての重心が置かれていることが理解できます。

設計者の前川國男は、スタッフから「大将」と呼ばれるような愛すべきキャラクターを持つ人物だったそうです。この2つの建物からは設計者、前川國男のその人柄からにじみでる温かさを感じることができるはずです。

神奈川県立図書館 神奈川県立図書館 神奈川県立図書館 神奈川県立図書館

前川國男設計「神奈川県立音楽堂」を訪れて

横浜ランドマークのある京浜東北線桜木町駅を下り、人通りの多いランドマークを避け、反対方向の紅葉坂へ。坂を上りきる辺りまでさしかかると前川國男設計の「神奈川県立音楽堂」が右手に見えてきます。正面の水平に延びた深い軒が、まるで人を誘っているかのよう。これだけ大きな規模の建物であれば、人に威圧感を与えてしまうことが多いのですが、そんな威圧的な雰囲気はなく、人を迎え入れるような優しい佇まいをしています。前川國男氏は、戦後一面焼け野原となったこの土地に人に希望を与えるような建物を作りたいと語ったそうです。その思いがこのような佇まいの建物を作らせたのでしょう。

少し背の高い音楽ホールを低層のホワイエが取り囲むという構成になっています。低層部分はガラスに覆われた軽快な意匠、音楽ホールは赤や緑で着色された重厚なコンクリートボックスと構成毎に異なる表情を持ち、お互いがその存在感を強調し合っています。

太陽の光が差し込む開放的なホワイエ。とても気持ちのよい空間です。「おおらか」という表現がしっくりきます。公演の合間にくつろぐ人たちや待ち合わせをする人たちが、みんな思い思いに時間を過ごしていました。天井から吊り下げられた照明器具やくねっと流れるような形の階段手すりなど、様々な細部にまで前川のデザインが盛り込まれています。その中でも個人的に特に印象に残ったのは床仕上でした。セメントと石を打ち込んだ後、研磨を掛けるテラゾーを2色使いで仕上げてありました。(昔は学校の手洗い場などで見ることができました。)一つ一つが考え抜かれ、職人さん達の手間が惜しみなく盛り込んであります。

扉を開け、落ち着いた雰囲気の音楽ホールへ。ゆったりとした椅子に腰掛け、演奏を待ちます。演奏が始まると、何かが違うことに気づきます。通常であれば客席の前方、ステージ方向から演奏が聞こえてくるのですが、どうもそうではない。目を閉じると、前方というよりはホール自体が音を発しているような不思議な感じがします。まるで楽器の中に入ってしまったかのような。このホールは天井壁ともに木で仕上げられています。この音響効果が木という素材によるものなのかどうかは、専門家ではないので分かりませんが、素人である私にでも何か違うという気がしました。設計者の前川國男自身、音楽好きで知られています。やはり音響に関しては特別な思い入れがあったのでしょうか。

演奏が終わり、外に出て振り返るとホワイエには明かりが灯り、昼間とはまた異なる表情を見せていました。外観のボリュームが闇に消え、ガラスの繊細さだけが際立って、昼に見たときよりも更に温かさが増したような感じがしました。

神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂

ジャン・ヌーベル設計「サムスン美術館Leeum/Museum2」を訪れて

前回に続いて、サムスン美術館リウムのレポートです。マリオ・ボッタ設計のミュージアム1に続いて、ジャン・ヌーベル設計のミュージアム2へ。2つの棟は地下のエントランスホールで繋がっています。こちらはジャン・ヌーベルらしい大屋根が掛かった直線的な建物。どの建物も個性的でお互いに競い合って建っているよう。マリオ・ボッタの中世的な表情に対して、こちらは現代的。

外壁からランダムに突き出した黒い箱の中が展示スペースとなっています。展示空間の中からは、黒い箱の中に展示された作品と、ガラス窓(場所によっては内側は遮光スクリーンが下ろされていますが)が交互に並び、まるで展示作品と外の景色が等価に扱われているように見えます。こちらはミュージアム1に比べて、明るく開放的な展示空間となっています。ミュージアム1には青磁などの古典的な作品、ミュージアム2にはモダンアートと、展示される作品の性格に合わせ全く異なる展示空間が用意されたのかもしれません。作品の大きさや見る方向も多様なモダンアートにとって、このようなランダムな配置方法は有効に働いているように思えます。

レム・クールハースの設計した児童教育センターは時間の関係で残念ながら中を見ることができませんでした。2つの建物を見るだけで既にお腹いっぱいになってしまったこともありますが。それはまた次の機会に。このような3人の世界的建築家の建物を同時に体験できるのは、他にはないことだと思います。

サムスン美術館ミュージアム2web
住所:ソウル特別市竜山区イテウォンロ55ギル, 60-16
開館時間:10時30分〜18時
休館日:毎週月曜日、1月1日、旧正月連休、秋夕連休(詳しくはwebで確認ください)
入館料:常設展10,000ウォン/企画展8,000ウォン
電話:02-2014-69013

サムスン美術館Museum2 サムスン美術館Museum2 サムスン美術館Museum2 サムスン美術館Museum2

マリオ・ボッタ設計「サムスン美術館Leeum/Museum1」を訪れて

韓国ソウルで以前から訪れてみたかったサムスン美術館リウムに行ってきました。世界的な建築家マリオ・ボッタ、ジャン・ヌーベル、レム・クールハースの3人によって設計された3棟の建物で構成されてます。それぞれ個性的な建築をつくる3人ですので、各棟は立面的にそれぞれ独立して建ち、地下のエントランスホールからそれぞれの建物へアクセスできるようになっています。

逆さまにして地中に差し込んだような円錐形と長方形が並んだミュージアム1。こちらはマリオ・ボッタ設計。シンプルな幾何学形態はマリオ・ボッタのトレードマークともいえる赤茶色のテラーコッタ・レンガ仕上げで覆われています。

平面は、螺旋階段とトップライトを中心に設け、その廻りをぐるりと展示スペースが取り囲むドーナツ形をしています。展示空間には一切窓がなく、暗い室内の中で作品が照明に照らされています。壁には外形の逆円錐形の傾きがそのまま現れています。この傾きによって、空間に流動性が生まれているように感じました。奥へ奥へと導かれるように進んでいきます。白い壁に触ってみるとざらっとした独特の質感。磨き漆喰のようです。ほんの小さな操作ですが、壁の傾きや質感がこの空間を成り立たせている重要な要素なのでしょう。

ぐるっと一回りするとその階の展示が見終わります。次の階へは中央の螺旋階段を通って移動します。明るさを抑えた展示空間から一転、トップライトから降り注ぐ真っ白な空間へ。突然、現実に引き戻されたような気分になります。

展示空間から移動空間へ。そして、移動空間から展示空間へ。暗と明。オンとオフ。緊張と開放。対比する空間を交互に通り抜けていきます。シンプルな構成ながら、集中して作品鑑賞することができるとても優れた展示空間だと感じました。

サムスン美術館ミュージアム1web
住所:ソウル特別市竜山区イテウォンロ55ギル, 60-16
開館時間:10時30分〜18時
休館日:毎週月曜日、1月1日、旧正月連休、秋夕連休(詳しくはwebで確認ください)
入館料:常設展10,000ウォン/企画展8,000ウォン
電話:02-2014-69013

サムスン美術館museum1
サムスン美術館museum1 サムスン美術館museum1  サムスン美術館museum1

磯崎新設計「ハラミュージアムアーク」を訪れて

前橋から1時間弱車を走らせ、伊香保グリーン牧場方面へ。今回の目的は磯崎新設計の「ハラミュージアムアーク」。こちらは牧場に隣接して建つ美術館です。緑の芝生が広がるのどかな風景の中に真っ黒な建物が見えてきます。緑の中にごろんと転がった黒い物体。その存在自体がアート作品のようにもみえます。

建物に近づくと黒い外壁は黒く着色した下見板で仕上げられていることが分かります。展示スペースはいくつかの棟に分かれており、棟の間の半屋外空間を通り、各展示棟へと移動していきます。真っ黒な建物の隙間からは、遠くの山並みが見えたり、緑の樹々が見えたり。周辺の風景を上手く切り取り、借景としてフレーミングしています。黒い建物が背景となり、いっそう風景が目に入ってきます。

展示棟の中でアートとじっくり対峙した後、移動空間がちょっと一息つく時間を与えてくれます。真っ黒な展示棟に入る=オンの時間、真っ黒な展示棟から出る=オフの時間、というように明確に空間(体験)が区分されています。窓のない壁に囲われた閉鎖的な展示空間と、黒い壁に囲われた開放的な移動空間。とても対照的な空間です。オンとオフ、メリハリある空間操作によって、より集中して作品鑑賞ができるように感じました。だらだらと抑揚なく作品展示が続いている展示空間は、見ていて疲れますから。

構成はとてもシンプルですが、敷地環境を良く活かした気持ちのよい美術館でした。肩の力を抜いて鑑賞できるというか。雪の真っ白な風景の中に経つ姿もまた美しいのでしょうね。

ハラミュージアムアークweb
住所:群馬県渋川市金井2855−1
開館時間:9時30分〜16時30分(入館は16時まで)
休館日:木曜(祝日・8月を除く)、展示替期間、冬期(詳細はwebで確認ください)
入館料:一般1,100円、大高生700円、小中生500円
電話:0279-24-6585

ハラミュージアムアーク ハラミュージアムアーク ハラミュージアムアーク

ザハ・ハディド設計「東大門デザインプラザ」を訪れて

韓国ソウル、東大門に2013年に竣工した東大門デザインプラザ(DDP)。設計者は今、新国立競技場の設計者白紙撤回で話題となっているザハ・ハディド氏。デザインプラザの名の通り、こちらの建物は美術館やイベントスペースやショッピングモールなどが複合した施設です。

その異様で巨大な外観は、遠くからでも目にとまります。ビルが建ち並ぶ街の中にその姿を見つけた時、頭に浮かんだイメージは「不時着した宇宙船」でした。艶かしいシルバーの曲面外皮、重力を無視したかのような不安定なバランス、窓などの建築的な手掛かり全く見えないつるりとした外形。どこをとってもこれを建築と定義する要素が見つかりません。今にも地面からふわりと浮いて、宇宙へと飛び立っていきそうな佇まい。

敷地周辺には、歴史的建造物の東大門や人々が屋台で賑わう東大門市場などの昔ながらの雑多なアジアな街並が広がっています。なんの脈絡もなく巨大な塊を街の中にごろんと置いた、ぶっきらぼうさを感じました。必要なのは、周辺の街のコンテクスト(脈絡)よりも「新しさ」だとザハはコメントしているようですが、その巨大なスケールは余りにも暴力的です。確かに新しさという設計コンセプトは実現しています。新しすぎて地球上の物体に見えないくらい。周辺の文脈を読み取るか、それとも無視するか。どちらが正しいとははっきりとは言い切れないのでしょうが、少なくとも私には周辺と調和しているとは感じられませんでした。

あいにく訪れたのは開館前で内部に入ることはできませんでしたが、内部に入ればまた印象は変わるのかもしれません。外皮の中には、きっとザハらしいスピード感のある内部空間が広がっているのでしょう。んっ?でもそれって宇宙船感をさらに冗長してしまうのかな。それはまた次の機会に。

東大門デザインプラザweb
住所:ソウル市 鍾路区(チョンノグ) 乙支路7街(ウルチロチルガ)2-1
開館時間:10時〜19時、21時、22時(閉館時間は施設毎に異なりますのでwebで確認ください)
休館日:無し(詳しくはwebで確認ください)
入館料:企画展毎に異なります
電話:02-2153-0408(英語のみ対応)

東大門デザインプラザ 東大門デザインプラザ 東大門デザインプラザ 東大門デザインプラザ