前川國男設計「神奈川県立音楽堂」を訪れて

横浜ランドマークのある京浜東北線桜木町駅を下り、人通りの多いランドマークを避け、反対方向の紅葉坂へ。坂を上りきる辺りまでさしかかると前川國男設計の「神奈川県立音楽堂」が右手に見えてきます。正面の水平に延びた深い軒が、まるで人を誘っているかのよう。これだけ大きな規模の建物であれば、人に威圧感を与えてしまうことが多いのですが、そんな威圧的な雰囲気はなく、人を迎え入れるような優しい佇まいをしています。前川國男氏は、戦後一面焼け野原となったこの土地に人に希望を与えるような建物を作りたいと語ったそうです。その思いがこのような佇まいの建物を作らせたのでしょう。

少し背の高い音楽ホールを低層のホワイエが取り囲むという構成になっています。低層部分はガラスに覆われた軽快な意匠、音楽ホールは赤や緑で着色された重厚なコンクリートボックスと構成毎に異なる表情を持ち、お互いがその存在感を強調し合っています。

太陽の光が差し込む開放的なホワイエ。とても気持ちのよい空間です。「おおらか」という表現がしっくりきます。公演の合間にくつろぐ人たちや待ち合わせをする人たちが、みんな思い思いに時間を過ごしていました。天井から吊り下げられた照明器具やくねっと流れるような形の階段手すりなど、様々な細部にまで前川のデザインが盛り込まれています。その中でも個人的に特に印象に残ったのは床仕上でした。セメントと石を打ち込んだ後、研磨を掛けるテラゾーを2色使いで仕上げてありました。(昔は学校の手洗い場などで見ることができました。)一つ一つが考え抜かれ、職人さん達の手間が惜しみなく盛り込んであります。

扉を開け、落ち着いた雰囲気の音楽ホールへ。ゆったりとした椅子に腰掛け、演奏を待ちます。演奏が始まると、何かが違うことに気づきます。通常であれば客席の前方、ステージ方向から演奏が聞こえてくるのですが、どうもそうではない。目を閉じると、前方というよりはホール自体が音を発しているような不思議な感じがします。まるで楽器の中に入ってしまったかのような。このホールは天井壁ともに木で仕上げられています。この音響効果が木という素材によるものなのかどうかは、専門家ではないので分かりませんが、素人である私にでも何か違うという気がしました。設計者の前川國男自身、音楽好きで知られています。やはり音響に関しては特別な思い入れがあったのでしょうか。

演奏が終わり、外に出て振り返るとホワイエには明かりが灯り、昼間とはまた異なる表情を見せていました。外観のボリュームが闇に消え、ガラスの繊細さだけが際立って、昼に見たときよりも更に温かさが増したような感じがしました。

神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂 神奈川音楽堂

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