菊竹清訓設計「東光園」を訪れて

「まるで戦艦のようだ。」これが建物を最初にみた印象だった。昔ながらの温泉街の中に、明らかに異質な存在としてその建物は建っていた。その建物の設計者は、菊竹清訓氏。メタボリズム、つまり、新陳代謝する建築という理論を展開した建築家だ。簡単にいってしまえば、スケルトン(構造体)とインフィル(内装・設備)を分け、構造体には、長い年月が経っても持つ耐用年数を設定し、内装・設備には、比較的短いスパンで更新できるようにし、建物が細胞のように新陳代謝を行ないながら、時代変化に対応してゆくというもの。

この理論に基づいて設計された建物は、ごつごつとした無骨な外観を持ち、まるで戦艦の艦橋のような、暴力的表情を見せていた。そのような感覚を抱いてしまうのは、人間のスケールを遥かに超越した構造体の大きさからくるのだろうか。それとも、コンクリート打放しというその無表情な素材からくるのだろうか。なんとも圧倒的な存在感を感じさせる外観だ。しかし、内部へと脚を進めると一転、繊細なディテールで作られた柔かな空間が広がる。この対比的な表現は一体、なんなのだろうか。

菊竹事務所は、事務所内の設計の部門を「か(思考や原理)→かた(法則性や技術)→かたち(感覚や形態)」とその思考する段階ごとに分けていたという。その設計の過程が、このような対比的な表現を生み出したのかもしれない。都市的スケールで考えられた構造体と、ヒューマンスケールで考えられた内部空間。設計者は相反するものを同時に持ちつつ、創造を深めていかねばならないと、菊竹氏は伝えているのかもしれない。

皆生温泉東光園
住所:鳥取県米子市皆生温泉3-17-7
宿泊料:HPをご確認ください
電話:0859-34-1111

東光園 東光園 東光園